フランツ・シュミット/交響曲 第2番 変ホ長調

品田 博之(クラリネット)

■ 最後の“正統的”交響曲作曲家 フランツ・シュミット

『Neues Wiener Tagblatt』掲載、1911年

 本日のコンサートで新交響楽団はついにフランツ・シュミットの全交響曲4曲の演奏を完遂します。ベートーヴェン、シューベルト、ブルックナー、マーラーらの後、ウィーンの伝統を受け継いだ、“正統派”といってよい交響曲作家の最後を飾る人がフランツ・シュミットと言えるでしょう。新響は1988年にマーラーの交響曲全11曲の演奏を完遂したのですがそれから約40年、マーラーは「やがて私の時代が来る」と語り、その通りになりました。マーラーの作品は今やアマオケでも頻繁に演奏されています。
 マーラーが定番となったころ、フランツ・シュミットも「次に流行る作曲家」と一部で噂されましたが流行には全く至りませんでした。なぜでしょうか。それはマーラーのような分かりやすいドラマが見えにくいからかもしれません。12年前の「交響曲ゴーストライター事件」を引き合いに出すまでもなく、私たちは音楽の裏にある悲劇やストーリーを期待しがちです。しかし、本日演奏する交響曲第2番にはそうした物語はありません。では、どう楽しめばいいのでしょうか。ストーリーではなく音楽そのものを味わう、シューベルトの「ザ・グレイト」やブラームスの第2や第4交響曲を思い浮かべてみてください。この曲も同じように聴けばよいのです。構成や大まかな流れさえ知っていれば、とても親しみやすい作品です。バッハからマーラーに至るドイツ・オーストリア音楽のエッセンスをシュミットの天才的閃きと最上級の職人技でまとめ上げた、豪華絢爛で壮大な建築物を見上げるような感動が得られるはずです。

■ フランツ・シュミットとはどんな人?

 1874年に現在のスロバキア・ブラチスラヴァで生まれ、1939年にウィーン近郊で亡くなったオーストリアの作曲家です。チェリストやピアニスト、オルガニストとしても優れ、ウィーン宮廷歌劇場でチェロの首席として演奏したほかウィーン音楽アカデミーの教授・院長を務めました。後期ロマン派の伝統を継ぐ作風で、4つの交響曲やオラトリオ「七つの封印の書」などが代表作です。時代的位置づけが把握できるように同時代の他の有名作曲家も含む生存期間と代表作を図示しました。

シュミットとその周辺の作曲家の生存期間と代表作

 シュミットの「交響曲第2番」の作曲は1911~1913年、これとほぼ同時期にマーラー「交響曲第9番」(1909)、R・シュトラウス「ばらの騎士」(1909-1910)、そしてシェーンベルクはすでに無調の音楽の時代 (1908~) に入っていました。この曲が完成した翌年に第一次世界大戦が勃発し、ウィーンの華々しい繁栄の崩壊が始まります。豪華絢爛で壮麗なこの交響曲は栄光の時代を締めくくる記念碑的な作品ともいえるでしょう。なおシュミットの没年 (1939) は、前年のナチスによるオーストリア併合に続いて第二次世界大戦が勃発し繁栄の終焉が決定的になった年、最後の“正統的”交響曲作曲家の没年として象徴的です。

■ 交響曲第2番で迷子にならないために

 はじめての道では地図やナビが大事。50分近くのなじみが薄い交響曲を聴くときもそれに相当するものがあれば楽しめるはずです。ということで小ネタを交えつつこの魅力的な音楽を堪能するためのナビゲーションをしてみたいと思います。
 曲は3つの楽章で構成されていますが第2楽章は大きく2つの部分に分けられるので実質的には一般の交響曲と同じ4楽章構成と考えることができます。括弧内は所要時間です。

第1楽章(四つの部分合わせて約16分)
 主要な旋律(主題)が順番に出てくる提示部、提示された主題を変奏して盛り上げる展開部、再び主題がほぼそのまま戻ってくる再現部、そして最後に盛り上げて終わるコーダという、区切りが明確なソナタ形式で書かれています。

(1) 提示部(約4分)
主要主題の提示
 いきなりピアノでの指のウォーミングアップみたいな細かい音符が連なる旋律で始まります(譜例)。これが曲全体を統一する主要主題です。

主要主題(第一主題)

 この交響曲は当初ピアノソナタとして構想されたものなので鍵盤楽器の曲の型式の一つ “トッカータ”のような主題が書かれたと言われています。例えばバッハの有名なオルガン曲 “トッカータとフーガ”(「チャラリ〜♪鼻から牛乳〜♪」で有名になってしまった曲)のこの “鼻から牛乳” の後の細かい音符が高速で上下する部分がトッカータです。シュミットはオルガンの名手でもあったのでこの主要主題が生まれたように思います。この音型は全楽章を通して弦楽器や木管楽器で演奏されますが技術的に難しく、出版楽譜の序文に「弦楽器群に要求される技巧だけを見ても、本作品は交響曲レパートリー中でも最難関に属すると言える。」と校訂者が書いています。一方シュミットは「どの楽器についても正しく書け。そこから不可能なものは何一つ生じない。」と言っていたそうです。我々も不可能なものは何もない状態を目指しました。この主要主題を中心に2分くらいかけていくつか他の旋律も現れて盛り上がります。

副主題の提示
 弦と木管楽器のトリルのあとホルンにより穏やかなメロディー(副主題)が姿を現します。霧が晴れて眼前に雄大なアルプスが姿を現してくる印象です。盛り上がった後徐々に静まってティンパニだけが残って提示部が終わります。

副主題(第二主題)

(2) 展開部(5~6分)
 主要主題が戻って展開部が始まります。提示部で出てきたメロディーが手を替え、品を替えて出現し壮麗な盛り上がりを作ります。どのように形を変えて出てくるのか気にしながら聴くのも一興でしょう。その後静かになってドラが残って再現部に移ります。

(3) 再現部(約4分)
 調性は変化しますが提示部をほぼ忠実に再現します。主要主題(指の練習)や副主題(アルプス)のメロディーはすぐに聴き取ることができるでしょう。

(4) コーダ(約2分)
 コーダは神秘的な雰囲気で始まります。徐々に主要主題を中心に壮大な盛り上がりを作ります。

第2楽章(二つの部分合わせて約19分)
 前述のように大きく2つの部分に分けられます。前半は変奏曲、後半はABAという三部形式のいわゆるスケルツォ楽章です。変奏曲部分は主題と8個の変奏でいったん終わった感じになりますが、そのあとすぐに続くスケルツォも主題の変奏の一つであり、楽譜には第9変奏スケルツォ、第10変奏トリオと書かれています。ここでは第8変奏までを変奏曲、そのあとをスケルツォとして説明します。

(1)変奏曲部分(約9分半)
 木管楽器で演奏される変奏曲の主題(譜例)は素朴な童謡のようです。第6,8変奏が2分台、他は1分未満と短くそれぞれ特徴的なので飽きている暇はありません。

変奏曲の主題

第1変奏:第1ヴァイオリンが主題を弾く裏で忙しく動き回る奏者多数
第2変奏:オーボエとクラリネットの対話
第3変奏:弦楽器で主題が細切れに奏される
第4変奏:高速の低音楽器と引き延ばされた主題
第5変奏:木管楽器が二グループに分かれて対話
第6変奏:のどかで、そしてちょっと寂しげ
第7変奏:うって変わってとっても忙しい
第8変奏:変奏曲部分のクライマックス。シュミットの魅力の一つである情熱的なマジャール風(ロマ風)旋律を木管楽器と弦楽器がほぼ一拍ずらして演奏します。

(2)スケルツォ部分(約9分半)
スケルツォ主部(約3分):3拍子の踊りの音楽ですがワルツのように優雅ではなく、ブルックナーも愛用した速いレントラー(南ドイツの民族舞踊)とみなせます。
中間部トリオ(約3分):一転、甘くて気だるい退廃的な音楽。これもシュミットの魅力の一つです。
スケルツォ再現(約3分):主部を再現します。踊り疲れた後の終わり方がかなりヘンテコ、金管楽器にマスクされがちですが弦楽器と木管楽器はでたらめな音を演奏しているように聴こえるかもしれません。でも楽譜にびっしり音符が書いてあってみんな必死です。最後でみんな揃ってジャン!で終わります。

第3楽章(三つの部分合わせて約15分)
(1)導入部(遅いフーガ)(約5分):バッハのオルガン曲を思わせる重厚なフーガ。前楽章で踊り狂った後の敬虔な祈りです。
 
(2)ロンド(約6分):一つの主要な旋律と複数の別の旋律を交互に繰り返す形式をロンド形式と言います。ここでは優しさ溢れるロンド主題(譜例)と決然としたテーマによる速いフーガやこれまでに出てきた旋律の変形などが交互に出現し盛り上がっていきます。

ロンド主題

(3)大コラールによる終結部(約4分):いよいよ金管楽器による壮麗なコラールが始まります。そこに弦楽器と木管楽器による第2楽章第8変奏のロマ風旋律が重なり巨大なクライマックスを形成します。曲想は違うもののブルックナーの交響曲第5番の第4楽章を連想せずにはいられない壮大さです。

 この交響曲第2番の日本初演は検索するかぎり2011年、そして、本日の指揮者寺岡清高氏は大阪交響楽団で2017年に演奏(それをもってシュミットの交響曲全4曲の演奏を達成)。その後他の指揮者・プロオーケストラで複数回演奏されており、今回ついにアマチュアオケでも演奏されることになった次第です。偶然ですが9月には代表作の「七つの封印の書」が複数のプロオケで演奏されるなど何が起きたのかと思います。あの世のシュミットは今頃、生前不仲だったといわれているマーラーに「私の時代も来たぞ」なんて言っているでしょうか? いやまだまだですね。皆様、マーラーばかり聴いてないでもっとシュミットも聴きましょう。

初演:
1913年12月3日、ウィーン、ムジークフェライン大ホール、フランツ・シャルク指揮、ウィーン・コンツェルトフェライン (Wiener Concertverein) 管弦楽団(現在のウィーン交響楽団)

楽器編成:
ピッコロ、フルート3、オーボエ2、コールアングレ、Esクラリネット、クラリネット3、バスクラリネット、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン8、トランペット4、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、大太鼓、シンバル、小太鼓、トライアングル、タンブリン、タムタム(銅鑼)、弦五部

参考文献
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